劇場版鬼滅の刃 無限列車編

えんむが言うところの「夢を見ながら死ねるなんて幸せだよねぇ」というセリフに俺は「確かに〜」と思ったし、少なくともこの映画においては正しいことを言っている。

というより、突き詰めていくとそれがこの映画のテーマであると思います。

 


劇中では夢から脱出する(=現実を生きる)ためには夢の中で自殺をしなければならないが、つまり「死」という一点を中心に現実と夢は対に位置している。そして、"現実を生きる"為には(死への)恐怖が伴う。

 


煉獄さんは夢の人であるところの母の姿を幻視して死ぬが、(広義で)夢を見ながらの彼の最期は笑顔であり、「やりとげた」「守り抜いた」幸せの中で死ぬのだ。

対して、生きながらえた三人は煉獄さんの死を発端として自分たちの無力さ(それはつまり自分たちの現実ということだろう)に絶望して泣く。

えんむが言っていた「夢を見ながら死ねるなんて幸せだよねぇ」は、逆に言えば「生きて現実を見るのは苦しいよね」ということだ。そういう対比になっているのだ。

ということは単なる敵キャラの戯言ではなく、この映画における世界観なのである。

 


付け加えると、あかざが煉獄を鬼に誘うとき「人間は老いるから死ぬからダメなのだ」という。老いも怪我も死もない自分は幸せであるからお前もそうなってみようよという論旨であり、さっき書いた「生きて現実を見るのは苦しいよね」に対して、えんむとは異なるアプローチで提言している。

 


煉獄さんは「人生は限られているから美しい」という返答をする。その際彼は「おまえとは価値観が違う」という言葉を使う。

 


なんで鬼滅の刃ってこんなにヒットしてんの?とずっと思っていたのだが、「観てる俺らの人生もメチャ苦しいから」っていうのもあるのかもしれないですね。であるならば、この映画は無意識下で「あるある系」なのかもしれない。

 


※エンドロールの演出だけはマジで蛇足じゃないですか?

黒バックに白字を淡々と出すだけで、通例そのようになっているから だけではなく「喪」の意味が生まれる気もするし、あんなことしなくても観客はあの時間全員、煉獄さんの顔を思い出しているだろ。

大切な人の姿は現実に目に見えなくても心の中では視えるのだと、そういう話だったじゃないか。

 

https://filmarks.com/movies/86962/reviews/100080172