2021年3月

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 去年の今頃は新型コロナが俺のようなのんきクンでもさすがに無視できないくらいの猛威になり始めた頃であり、誰とも会わない日々が始まる予感がしていた。

 リモート飲みという流行の中で普段酒なんか全然飲まない俺も缶ビールをひと缶買ってパソコンの前に置いて、誰かに誘われるのを待っていた。

 あれから酒方面ではいろんなことがあって、今でもひとりでは呑まないけれど、それでもずいぶん酒を飲む量が増えた。呑む機会が増えたということだ。即真っ赤になるのも減ったんじゃないかと思っている。

 三月のある日に、はす向かいのアパートが取り壊されはじめた。毎日少しずつしかし確実に取り壊されて、更地になった。住んでいた人の顔をひとりも知らないが、彼らはどこへ解散してしまったのだろうかということをよく思う。

 

 緊急事態宣言もあけたからとなんとなく近所の行きつけの居酒屋でたまちゃん(仮名)と梨バックさん(R.N)と一、二杯呑んで、そのままなんとなく俺の家で呑んだ。もう本当に良い加減大人になってるはずなのにたまちゃん(仮名)が恋の話をしたがって、恋の話とかをした。それはやるとかやらないとかじゃなくて、ポケットからキュンですみたいなことについて。
 俺は何年ぶりかでかつて好きだった年上の女との顛末を話した。何年ぶりかで話しながら、顛末をきちんと話せる自分に驚いて、そしてそれでもこぼれ落ちているエピソードがある感覚にめちゃめちゃな寂しさをおぼえた。
 ひととおり聞き終えた2個の飲酒眼鏡たちは「我々はたぶんその人のことあんまり好きじゃないな」と言った。この話の顛末を聞いたほとんど全員がそう言うのだが、その言葉を聞くのも本当に懐かしかった。
 なんの拍子か忘れたけど俺が何年も昔、演劇公演の時に入場特典にするために作った音楽をいくつか、三人で聴いたりする時間もあった。2人はすごく褒めてくれた。俺は嬉しさが少しで、残りは懐かしさでいっぱいだった。

 夜も更けて2人の帰路を送った。梨バック(R.N)とは駅までの途中の道で別れ、たまちゃん(仮名)をそのまま駅まで送った。毎度のことだけど大量飲酒でフラフラのたまちゃん(仮名)の千鳥足に「お水買いなよ!」と呼びかけると「お水買います」と答え千鳥足はフラフラ歩いていった。
その後ろ姿を眺めていたら、なぜかとっても心ぼそくなった。

 引き返す家までの道で「vampurity」を聴いた。大学生の時を思い出した。そして関係ないけど、たまちゃん(仮名)が帰り道で事故なんかに遭って死んじゃったら俺どうしようと思った。悲しくて涙がほっぺの裏まで込み上げた。
堪えつつ歩いて歩いて、はす向かいのアパート跡地を横切った時、たまちゃん(仮)が部屋で「見つめていたい」をかけながらしていた話を思い出した。
「何日か前、ポカポカ陽気の昼間の部屋でこの曲を聴きながらたばこを喫ってたら突然涙が出てきちゃったんです。なんだか自分の周りの人たちが、みんな何処かへ引っ越しちゃったんじゃないかって気分になってしまって、すっごく寂しくなっちゃったんです。」